『Fate/Prototype 蒼銀のフラグメンツ』第27話感想 愛する人を抱き締めるきっかけをくれたあるじのために静謐ちゃんは何処までも堕ちて行く
コンプティーク2016年8月号より
時は人類史の破壊前夜。ついにこの時がやって来た。
聖杯戦争に関わった者たちがそれぞれ結末に向かって動き出す。
そして以前は足取りも重かったセイバーが今は迷いなく大聖杯を探していた。
むろん全てを終わらせるためである。答えを得た彼には聖杯はもはや無用の代物なのだ。
ずいぶん遅くなったけどヒーローは遅れてやって来るものなのさ。
そして目前に迫る人理の危機を前にしてそれぞれ契機が訪れたアサシンとキャスターのサーヴァント。
二人が選んだ道は変わらぬ忠誠を愛歌おねえちゃんに捧げることであった。
パラケルススなどは大聖杯の正体に動揺したけど変わらぬ様子で…
なんてことはなく緊張が張り詰めている。
だが静謐ちゃんも言ってたけど変わらぬ言動で立ち位置を維持できるだけでもすごいものである。
だがやはり緊張だけはどうしても隠せない。もうすぐ人理がどうかなってしまうのだから。
自分の死も、聖杯にくべられると知っても顔色さえ変えなかったというのに。
やはりパラケルススにとっては世界に関わる案件は無視できない様子。
それでも愛歌に従い続けるのはさて何を待っている魔術師。
そして静謐ちゃんも愛歌に従い続ける。
彼女はそもそも世界が終わろうとも愛歌に一度誓った忠誠は絶対。
愛歌が毒の体など関係なしに肌に触れてくれるとやはり彼女の体は熱くなるのだ。
誰かに触れてもらえる喜び、それはずっと彼女が求め続けていたものだからね。仕方ないね。
それに今まで静謐ちゃんをペット扱いしていた愛歌がここに来て一人の少女のように扱い出す。
具体的にはジールの名前を読んで巽くんをかばった時の姿は素敵だったと話し出す。
…愛歌様もお年頃…恋バナとかしたいみたいな?ここに来て関係性が微妙に変化するのが面白い。
そんな主に今度は無様を晒さずに絶対の忠誠を再度誓い最期の瞬間まで尽くそうとする。
だがその熱も巽くんのことを思い出すと失われていくのであった。愛じゃよ。
戸惑う静謐ちゃん。そして生真面目に従うパラケルスス。
二人を残して愛歌は一人でお出かけしていく。最後の生贄を調達しに。
それで向かったのは二度と戻るつもりのなかったという我が家。
そして会いに来たのは二度と顔を見ることもないハズだった妹の綾香。
>「ねえ、綾香」
>――あなた、ゆうべ、誰かと会っていたでしょう?
この頃の綾香からすればとばっちりで生贄にされてしまった
おねえちゃん。しっとはみにくいですよ。
そしてもうすぐ聖杯にくべられる静謐ちゃんとパラケルスス。
これが最後の機会だろうと今まで会話も避けていた静謐ちゃんにパラケルススは話しかける。
>「私からの贈り物、随分と気に入って戴けたようですね」
話の切り口としてそれはどうなんだ錬金術師!
まあ気を引くという意味ではこの上ないかもしれないがこれも計算のうちかパラケルスス。
そして言及するのは愛歌が静謐ちゃんのことをなんとも思っていないという事実。
静謐ちゃんが知ることができた自らの愛のなんたるかについてである。
パラケルススはあの巽くんをかばった静謐ちゃんの姿に輝きを見たのだ。
だから助言しているのだ。今なら英雄としての自己を取り戻すこともできると。
要はこのまま堕ちるとこまで堕ちる必要ないんじゃないの?って選択を迫ってるのさ。
リビングデットにはじまってなんというでっかいお節介だこの人。
>「私は、既にこの身のほどを知った。
> 真の充足を……きっと、私は得ることができた」
>「けれど、それさえも。沙条愛歌なくしては知りえないことではあったのです」
対して静謐ちゃんの答えは決まっていた。もう彼女はこのまま行くと。
最後にパラケルススにもお礼を行って彼女は成すべきことを成そうと動き出す。
この「真の充足」とやらも生前ではどうあっても手に入らないものでしたからね。
生前、心を許した相手は居たのだが…それはとある将軍である。
これはFGOのマテリアルでも解説されてましたね。
>最期は、手さえ触らせない彼女の振るまいを怪しんだ某軍の将軍に首を撥ねられたとも、
>暗殺者という正体を自ら明かして「殺してください」と将軍にせがんだとも───
>あるいは、将軍がふと目を離した隙に何者かの手で斬殺されていた、とも。
静謐ちゃんは暗殺対象である将軍に心を許してしまった。
そしてその将軍に真実を告げようと決意した瞬間に首を刎ねられていたという話。
誰にかって?歴代ハサンの最期に現れる大いなる御方ですよ。
ハサンに相応しくない思考をするだけでこれとは恐るべしである。
サーヴァントの彼女は思う存分満ち足りることが出来る…ハズだった。
愛歌のペットをしてたころは満たされていた。
やはり巽くんに出会ったのが運命だったのであろう。
彼女は愛歌をあるじとしながらも巽くんを毎夜抱きしめていたのだ。
だがそれもおしまい。最期の戦いを前に彼女は巽くんを壊そうとする。
だが彼女には最後に奇跡が起こった。巽くんがハサンの名前を呼んだのだ。
そして「行くな」「死ぬな」という言葉を吐き出して静謐ちゃんを行かせまいとする。
何のことはない。この少年は静謐ちゃんの死の覚悟を感じ取って奇跡を起こしたのだ。
命を失いこんな姿になってまでこの意思を貫き通すとかもう認める他ない。お前はヒーローだ。
「ありがとう。そんな風に言ってくれたの、あなたが初めてです」
「……タツミ。殺した瞬間から、あなたのことが好きだった」
> 死ぬな
>
> 殺すな
>
>
> 逃げろ
>
> 生きろ
>(石牢に刻まれた文字列より抜粋)
來野巽、静謐のハサンの腕の中で今度こそ逝く。
リビングデットになっても最期の瞬間まで他者を案じ続けた男であった。
そして残ったものは愛歌への忠誠。
彼女はそれを貫こうと大聖杯への通路を守る。セイバーの足止め役である。
なのだが、ここでも巽くんへの想いが静謐ちゃんの行動を狂わせる。
まずどこぞの門番じゃあるまいし気配遮断も使わず堂々と一本道で待ち伏せがおかしい。
相手はあの騎士王である。しかも綾香を絶対守るモードなので容赦も手加減も無い。
聖剣を二合防いだだけで静謐ちゃんは霊核をやられてもう消えかけである。
あるじへの忠誠は確かにあるのに勝利への気概を感じないのは何故か。それは…
>「今、東京にはタツミの妹がいる。死なせたくはない。そうも……思う……」
>「私は……狂っているのだろうか……」
そういえば行方不明のお兄ちゃんを探しに妹さんが来てましたね。
大聖杯が起動すれば東京都内からは命が失われちゃうわけで
愛歌への忠誠は絶対だけど巽くんの妹も死なせたくないという矛盾。
最後の瞬間まで彼女は苦しんで可哀想だが、彼女はハサンの名に相応しい結末を迎えることを選ぶ。
>愛しい我があるじ。
>誰よりもまばゆい、あなた。
>私が、愛するひとを抱き締めるきっかけをくれた――
>私と同じく、誰かを愛するあなた。
>沙条愛歌――
愛歌と静謐ちゃんはもっと酷い別れ方すると思ってたんですよね。
仕えた主が悪すぎたけどそれでも最後まで忠義を貫けたのは静謐ちゃんには良かったのかな。
残るサーヴァントはセイバーとキャスター。いよいよ終わりが近くなって目が離せない。
…静謐ちゃんは、俺がFate/goで幸せにする。(聖杯を9個使いながら)