【Fate】衛宮士郎「イリヤからはラブレターが。遠坂からは果し状が届いた」
イリヤ「ふんふふーん」
凛「ただいまー」
イリヤ「おかえりー」
凛「あら、イリヤ。来てたの」
イリヤ「うん」
凛「士郎は? 買い物?」
イリヤ「そうよ。シロウも大変ね。居候が買い物もしてくれないんだもの」
セイバー「……」
凛「それで、貴女は何を書いてるの? 術式の類ならアインツベルンの敷地内でお願いしたいわね」
イリヤ「術式をシロウの家で堂々と描くわけないでしょ。描くなら誰にも気づかせないわ」
凛「なら、何よ?」
イリヤ「シロウへのラブレター」
凛「ふぅん」
イリヤ「そういうことだから、私のことは気にしないで」
イリヤ「んー……。あとは何を書けばいいかな……」
凛「お茶でも飲もうかしら」
イリヤ「やっぱり結婚しては書いておいたほうがいいよね」
凛「……イリヤ?」
イリヤ「なに?」
凛「それラブレターでしょ?」
イリヤ「そうよ」
凛「プロポーズの言葉を書くのはちょっと違うんじゃない?」
イリヤ「そうなの?」
凛「普通はあれでしょ。自分の一方的な感情をしたためるものよ」
イリヤ「それなら結婚してって書いてもいいじゃない」
凛「だからそれはプロポーズでしょ。ラブレターはその前段階を書くの」
イリヤ「例えば?」
凛「ほら、好きですとか、いつも感謝してますとか。そういうのを書くのがラブレターなのよ」
凛「ちょっと見せてみなさいよ。私が検閲して校正してあげてもいいけど?」
イリヤ「ホント!? リンにも優しいところあるのね」
凛「どういう意味よ」
イリヤ「それじゃ、はい」
凛「どれどれ……」
イリヤ「正直なところ、私もラブレターなんて書いたことがないから不安だったの」
凛「あ、ちゃんと日本語で書いてる」
こんなわたしのことをいつもやさしくしてくれてありがと
シロウのことだーいすき
凛「……」
イリヤ「どう? 上手く書けてる? シロウに私の気持ちが伝わる?」
凛「全然、ダメね。これだと何も伝わらないわ」
イリヤ「えー!?」
イリヤ「リンならどう書くの?」
凛「比喩表現なんかも交えつつ、詩的に書くわね」
イリヤ「ちょっと書いてみて。お手本にするから」
凛「いいわよ。5分ほど時間を頂戴」
イリヤ「ええ。構わないわ」
凛「……」
イリヤ「セイバー、さっきから黙ってるけど何かあるの?」
セイバー「この時間はいつもこうしているだけです」
イリヤ「そうなんだ」
セイバー「イリヤスフィールは知っているでしょう」
イリヤ「道場のほうで正座してるのはよくみるけど」
凛「……」カキカキ
セイバー「……」ソーッ
イリヤ「セイバー? リンのラブレターが気になるの?」
イリヤ「そう」
凛「……できたわ」
イリヤ「もう!? 見せて、見せて!」
凛「はい。これが日本人が書く一般的なラブレターの文面よ」
イリヤ「えっと」
夜もすがら もの思ふころは 明けやらぬ
閨のひまさへ つれなかりけり
イリヤ「うーん……? これどういう意味?」
凛「貴女のラブレターを日本風に書くとこうなるの」
イリヤ「日本だとこんな風に書かなきゃいけないの!?」
凛「そう。こうやって書かないと相手に失礼なの」
イリヤ「む、むずかしい……どうしよう……」
凛「でしょうね。イリヤは日本のラブレターをもう少し勉強しないといけないんじゃないかしら?」
イリヤ「うー……今すぐ渡したいのにぃ……。でも、シロウに失礼なことはできないし……」
凛「あら、セイバー? 今日のおやつはそこの戸棚の奥にあるわよ」
セイバー「そうなのですか。分かりました」
イリヤ「はぁ……今日は諦めるしかなさそうね……」
凛「大体、なんで急にラブレターを渡そうとか考えたの?」
イリヤ「だって、シロウは幾ら口で好きって言っても軽く流すんだもん」
凛「本気にされていないってことね」
イリヤ「でね、リズが「そういうときは手紙。ラブレターが効果的」ってアドバイスしてくれて」
凛「そうなの」
イリヤ「それで書いて渡そうと思ったんだけど、こんなルールがあったなんて知らなかったわ」
凛「残念だったわね」
イリヤ「こういう書き方を学ばないといけないんだ……」
凛「ま、しっかりやればすぐに覚えられるわ。イリヤは天才だもの」
イリヤ「ありがとう、リン。恥をかかずに済んだわ」
凛「うふふ。お役に立てて光栄よ」
凛「帰るの? 夕飯ぐらい食べていきなさいよ」
イリヤ「やることが増えちゃったから」
凛「そう。セイバー、イリヤを送ってあげて」
セイバー「いえ、その必要はないです」
凛「どうして?」
セイバー「庭にバーサーカーが待機していますから。無論、立っていると大変目立つので膝を抱えて座っていますが」
凛「え!?」
イリヤ「バーサーカー!!! 帰るわよー!!!」
『■■■■■■――!!!!』
凛「ちょ……!?」
イリヤ「シロウによろしくね」
セイバー「いつでも来てください」
イリヤ「勿論っ。シロウからも遠慮はしなくていいって言われているもの」
凛「バーサーカーと一緒に来るのはやめなさいよ!!」
凛「全く。カレンに注意させようかしら」
セイバー「ところで、リン。先ほどの文面ですが、あれは日本では有名な歌ではありませんか?」
凛「そうよ。百人一首にあるわ」
セイバー「一般的には古人の歌を拝借し、想いを伝えるのですか?」
凛「最近の流行りみたいなものよ」
セイバー「そうだったのですか……」
凛「じゃ、私は部屋に篭るから。士郎が帰ってきたら、教えてくれる?」
セイバー「分かりました」
凛「それじゃ」
セイバー「はい」
セイバー「……」
セイバー「……よし」
セイバー「確か倉庫の中に百人一首の札が眠っていたはず」
セイバー「調べてみましょう」
凛「ふぅー」
凛「さてと……」
凛(時間稼ぎはできたけど、このまま手をこまねいてもいられないわね)
凛(怜悧なイリヤのことだもの、きっと私の説明がデタラメであることに気づくのも時間の問題)
凛(その前になんとかしないと……)
凛(でも、シロウは唐変木だし、ちょっとやそっとのことではまず進展することはない)
凛(私が直接的に言ってもイリヤみたいに本気にしない可能性もある……)
凛(そうなると私がただ恥ずかしいだけ……それはちょっと嫌……)
凛「となれば、私もやるしかないわね」
凛「面と向かって告白することなく、素直な気持ちを文章にするだけなんて簡単よっ」
凛「えーと」
士郎へ
大好きだよ
凛「――違う!! こんなの私じゃない!!」ビリビリ
セイバー「……」
ライダー「ただいま戻りました」
セイバー「お疲れ様です」
ライダー「カードを並べてどうしたのですか?」
セイバー「百人一首です」
ライダー「カルタと言われるものですね。貴女は暇を持て余しすぎだと思います」
セイバー「暇つぶしで児戯に没頭しているわけではありません!!」
ライダー「では、何故並べているのですか」
セイバー「……貴女に説明する理由はない」
ライダー「そうですね。踏み込んだ質問をしてしまい、申し訳ありません」
セイバー「いえ」
ライダー「では、失礼します」
セイバー「シロウが帰宅したら呼びにいきます」
ライダー「はい。お願いします」
ライダー「そろそろセイバーにもアルバイト先を紹介したほうがいいのでしょうか……」
凛「うーん……うーん……」
ライダー「リン」
凛「あら、ライダー。おかえり」
ライダー「何か悩み事ですか?」
凛「まぁね。色々あるの」
ライダー「私にできることがあれば言ってください」
凛「……一つだけお願いを聞いてくれる?」
ライダー「私にできる範囲でしたら」
凛「桜が士郎に手紙みたいなのを渡したことってある?」
ライダー「手紙ですか。シロウが買い物へ向かう際にはよく渡していますが」
凛「それは買うもののリストを渡してるだけでしょ。ほら、そういうのとは別の何かよ」
ライダー「いえ、記憶にありません」
凛「あ、そう。そうなんだ」
凛「ううん。別に」
ライダー「……」
凛「分かったわよ。今日、イリヤが来てて、そのときに士郎へのラブレターを書いてたの」
ライダー「ほう……」
凛「で、もしかして桜も士郎にそういうの渡してるのかなーって気になって。ただそれだけ」
ライダー「そういうことですか」
凛「でも意外ね。桜が渡してないなんて。まぁ、半同棲みたいなことしてたらかえって書く機会もないか」
ライダー「……サクラは渡せていないだけです」
凛「え?」
ライダー「書き溜めてはいるようですが、渡す勇気がないのでしょう」
凛「それを見ることってできる?」
ライダー「リン。本気で言っているのですか?」
凛「あ、き、訊いてみただけじゃない。冗談だって、冗談」
ライダー「そうですか。それならいいのですが……」
セイバー「どの歌が私の気持ちを表現しているといえるのか……」
士郎「ただいま、セイバー」
セイバー「シロウ! おかえりなさい!」ババッ!!
士郎「何してたんだ?」
セイバー「いえ。精神統一をしていました」
士郎「ん? あ、これ百人一首じゃないか」
セイバー「しまった……!!」
士郎「そういえば昔はよく藤ねえとこれで遊んだなぁ。いつも途中で藤ねえがルールを無視して札をかき集めだしてたけど」
セイバー「そうですか」
士郎「これがどうかしたのか?」
セイバー「何でもありません」
士郎「そっか。それじゃ夕飯作るよ。少し待っててくれ」
セイバー「はい!」
士郎「桜は遅くなるって言ってたし、一人でやるか」
士郎「いいって。それより弓道部のほうがどうなんだ?」
桜「問題ないですよ。美綴先輩のフォローがあればですけど」
士郎「もう桜1人でもまとめられると思うけどな」
桜「そんなことないです。私なんてまだまだで……」
大河「はむ! はむ! はむはむ!!」モグモグ
凛「……」
セイバー「あの、おかわりを」
桜「はぁーい」
ライダー「……シロウ」
士郎「なんだ?」
ライダー「ラブレターを貰ったことはありますか?」
士郎「え?」
凛「な……!?」
桜「……」
ライダー「殿方なら恋文の一通ぐらいは受け取っているものだと聞いたので、シロウもそうなのかと興味が」
士郎「ライダーがそんなことに興味を持つなんて意外だ」
ライダー「私も一応、女ですから」
士郎「ど、どういう意味なんだ」
ライダー「気にしないでください。それでどうなのですか?」
士郎「えーと……。貰ったことはあるけど」
桜「誰にですか?」
士郎「ああ。そこにいる」
桜「……」キッ!!
大河「はむはむはむ!!」
桜「藤村先生……?」
士郎「な、藤ねえ?」
大河「うん。わたしたー」
セイバー「何故、タイガがシロウに恋文を渡したのですか?」
凛「ラブレターで誤魔化したということですね」
大河「そうそう。でも、結構真面目に書いたからねー」
ライダー「そのときの感想は覚えていますか?」
士郎「素直に嬉しかった。あと藤ねえでもこんな風に書けるんだなって感動したな」
大河「でっしょー? ミルクチョコ並の甘さが脳髄に伝わるように文面で表現したんだから」
士郎「そういう意図があったのか」
ライダー「シロウはタイガの恋文でも嬉しかったということですか」
士郎「勿論。俺に対しての好意が綴られてるんだから、嫌な気分になるわけがない」
ライダー「……」チラッ
桜「な、なに?」
ライダー「いえ」
桜(もしかして……ライダー……私に気を遣って……)
凛「そのラブレター、今もある?」
士郎「ああ。大事に保管してる。藤ねえからのラブレターだからな」
桜「きゃ!?」
セイバー「タイガ、はしたないですよ」
大河「ごほっ!! ごほっ!! ちょ、ちょっと!! 士郎!! なんで今も私の愛情を保管してるわけ!?」
士郎「折角のプレゼントだから、捨てるなんてできないだろ」
大河「最後に読んだら燃やしてって書いてあったはずなのに!!」
士郎「それは覚えてないな。本文ばかりが印象に残ってる」
大河「一番重要なことなのにー!!!」
凛(これはチャンスね。参考にできるかも)
凛「ね、士郎っ。そのラブレター、見せてくれる?」
士郎「え? ああ、ちょっと待っててくれ。今、持って来る」
大河「ダメにきまってるだろうがー!!!! がおー!!!!」
セイバー「落ち着いてください、タイガ」
桜「そうですよ、藤村せんせっ」
ライダー「いいではないですか。どのようなことを綴ってあるのか私も知りたいです」
本当なら甘いチョコレートを渡して、士郎の心に私のハートを届けなきゃいけないのに手紙にしちゃってゴメンね。
でも、これは士郎への愛情が薄れたとかそういうことじゃないの。本当に士郎のことが大好きだからこそ手紙にしたの。
士郎への想いはチョコレートみたいに甘いけど、決して溶けたりしない。熱いものをかけられたって、絶対に形を崩したりしない。
もし信じられないなら、私のハートを舐めてもいいよ。そしたらきっと士郎にも分かると思う。
この気持ちが本物だってことに・・・。
大好きだよ、士郎。
P.S.
読んだら燃やせ
桜「わぁ……」
ライダー「なるほど」
セイバー「和歌ではありませんね、リン」
凛「ふぅーん。こんな風に書くんだ」
セイバー「リン、私とイリヤスフィールを騙しましたね?」
士郎「藤ねえがどれだけ俺のことを大切に想っているのかよくわかるだろ?」
桜「はいっ。とっても素敵なラブレターですね、先輩!」
大河「……」
士郎「お粗末様です」
桜「さてと、先輩。洗い物は私が全部引き受けます」
士郎「そうか? ありがとう、桜」
桜「いえ。ご馳走になったのですから、そのお返しをする。当然のことです」
ライダー「サクラ、私も手伝いましょうか?」
桜「んー、それじゃあ、お願いしようかな」
ライダー「はい」
凛「私は部屋に戻るわ」
士郎「あとで飲み物でも持って行こうか?」
凛「いいわ。そのまま寝ちゃうから。今日は少し疲れてるの」
士郎「遠坂、何かあったのか?」
凛「何もないわよ。ちょっと研究に時間を割けば、自然と睡眠時間は削られるでしょ。それだけ。……心配してくれて、ありがと」
士郎「なに言ってるんだよ。遠坂の心配なんてするに決まってるだろ。お礼なんて必要ない」
大河「……かえろ」
ライダー「サクラ、タイガのラブレターを参考にするのはどうですか?」
桜「や、やめてよ、ライダー。ラブレターなんて、私は……」
ライダー「しかし、私は知っています。貴女がシロウのために何度も書き溜めて――」
桜「やめて!!」
ライダー「サクラ……」
桜「私にはラブレターなんて書けないの」
ライダー「ですから、タイガの恋文を参考にすれば……」
桜「違うの!!」
ライダー「何が違うのですか? サクラの想いは本物のはずです」
桜「何度やってもあんな小さな便箋に私の気持ちは納まらない」
ライダー「なんですって……」
桜「この気持ちも知ってもらわないとって思って書いていると便箋は100枚を超えたし、大学ノート10冊分びっしり書いても私の先輩への気持ちは1/10も伝えられない……!!」
ライダー「……」
桜「私はラブレターを書くのに向いてないみたい……」
士郎「桜とライダーの様子がおかしいような……」
セイバー「……」
士郎「あ、セイバー。藤ねえが置いていった煎餅があるけど、あとで食べるか?」
セイバー「はい。頂きます」
士郎「お茶も用意するからな」
セイバー「すみません。少し席を外します」
士郎「まだ巡回の時間じゃないぞ。一緒にテレビでも……」
セイバー「大切な用事があります」
士郎「そうなのか?」
セイバー「はい。敵とはいえ、このままでは不憫なので」
士郎「敵って誰のことだ?」
セイバー「失礼します」
士郎「セイバー?」
士郎「……なんだ?」
純情な感情は空回り
I love you さえ言えないでいる
イリヤ「うー……えーと……恋しあなたに……とどくかぜは……」
イリヤ「あー!! もー!! こんなのどうやればこんな詩が書けるっていうのよー!!!」
イリヤ「リンって詩人なんじゃないの!?」
イリヤ「シロウにラブレターわたしたい!! わたしたいー!!」バタバタ
イリヤ「うぅー……」
イリヤ「……よし、がんばろ!」
イリヤ「どういう表現がらしいのか、もう一度調べてみないといけないわ」
イリヤ「バーサーカー!! そこの史料とってー!!」
バーサーカー「……」サッ
イリヤ「ありがと」
バーサーカー「……」コクッ
セラ「あの、お嬢様、そろそろ……」
イリヤ「もうちょっとだけ!」
リズ「イリヤ、イリヤ。電話、電話」テテテッ
セイバー『私です』
イリヤ「どうしたの、セイバー? 私はとっても忙しいから明日にしてくれると嬉しいわ」
セイバー『どうしても今、伝えておきたいことがあります』
イリヤ「なによ?」
セイバー『……今日、リンが言っていたラブレターのマナーは出鱈目でした』
イリヤ「……」
セイバー『何故、あのような虚偽の礼儀を説明したのかは分かりかねますが、とにかく嘘だったのです』
イリヤ「……」
セイバー『寧ろ、イリヤスフィール、貴女が最初に書いていたラブレターこそ、本物に近い、いや、本物だったと言えます』
イリヤ「そうなんだ」
セイバー『私から謝罪をさせてください。ただ、リンにも何か考えがあってのことだと思うのです。どうか、リンのことは……』
イリヤ「うふふ。謝らないで、セイバー。感謝するのは私のほうだもの。恥をかかずに済んだわ」
セイバー『あの、イリヤ――』
イリヤ「じゃ、やることがあるから。またね、セイバー。……リンによろしく」
あとついでにこのバーサーカーもかわいい
セイバー「……切れてしまった」
セイバー「最後の言葉は怨嗟のようだった気が……」
セイバー「……」
士郎「セイバー?」
セイバー「な、なんですか?」
士郎「煎餅、食べるか?」
セイバー「はい! 勿論!」
士郎「誰に電話してたんだ?」
セイバー「イ、イリヤスフィールに」
士郎「イリヤ? へぇ、電話する仲になってたのか。知らなかった」
セイバー「そういうわけでは……」
士郎「みんな仲良くしてくれるほうが嬉しいな、やっぱり」
セイバー「……それは儚いものです、シロウ」
士郎「そんなことない。現にセイバーとライダーだって上手くやれてるじゃないか」
凛「……」
士郎へ。
突然、こんな手紙を渡してきっと貴方も驚いていると思う。
だけど、共に過ごす時間を重ねていくたびに心が締め付けられて苦しい。
もう楽になりたい。これを書けば少しは楽になれると思った。
本当なら直接言ったほうがいいんだろうけど、私にはそんな勇気もないからここに書きます。
遠坂凛は貴方のことを愛しています。
一生、傍にいさせてください。
凛「……」
凛「ふ……ふふふ……」
凛「書いちゃった……けど……」
凛「こんなもの渡しちゃったら、士郎はきっと大切に保管する……」
凛「そして今日の藤村先生のような仕打ちを……」
凛「そうだ。渡して、読んで貰って、そのあと私が奪って、燃やせば……」
凛「これしかないわね!」
相手に知識と風流を理解できる感性があるという前提で
ライダー「本当にいいのですか?」
桜「うん。ライダーになら読まれてもいいし、できれば便箋一枚に納まるまで私の気持ちをまとめてほしいから」
ライダー「やるだけのことはやってみます」
桜「よかったぁ。ライダーは普段から読書をよくしていて文章を作るの上手だから、安心っ」
ライダー「あまり買い被らないでください」
桜「はい。これが先輩への思いをひたすら綴ったノート。少し恥ずかしいけど、見て」
ライダー「それでは拝見します」
ライダー(まずは適当に……)ペラッ
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き
ライダー「……!?」ビクッ
セイバー「はむっ」
士郎「そういえば、百人一首はどうしたんだ?」
セイバー「それなら既に片付けました。不要なものだったので」
士郎「セイバーが和歌に興味を持ったのかと思ったけど、そういうわけじゃないんだな」
セイバー「ええ。違います。ですが、古人の歌はとても心地良い。心が洗われるようです」
士郎「何か気に入ったものとかあったか?」
セイバー「すみません。殆どの言葉は意味すらもよく……」
士郎「そっか。まぁ、古語だからそれなりの知識とかいるし、理解は難しいか」
セイバー「しかし、先ほども言いましたが意味はわからなくても、澄んだ言葉が耳に良い」
士郎「純愛を歌ってるものとかは綺麗だからな」
セイバー「ほう。シロウは愛情表現を歌にされると嬉しいのですか」
士郎「歌で表現されたら惹かれると思う」
セイバー「……そうですか」
士郎「お茶のおかわりは?」
セイバー「……」
セイバー「シロウは和歌に惹かれる……」
セイバー「普通の恋文を書くよりは……」
セイバー「いや!! 私は何を考えている!!」
セイバー「イリヤスフィールに出鱈目だと伝えてしまったのに、私が歌を制作するなどあってはならない」
セイバー「そんなことをしてしまえば、私がイリヤスフィールを謀ったことになってしまう」
セイバー「騎士道に反することだ。卑怯なことはしない」
セイバー「シロウには公正な目で判断してもらわなくてはいけない。私だけが優位に立つ戦など求めてはいない」
セイバー「何より、紛い物の感情で選ばれても虚しいだけ」
セイバー「シロウが和歌に惹かれるという情報は忘れなければ」
セイバー「……道場、異常なし」
セイバー「そろそろ褥に……」
セイバー(和歌……五七五……)
セイバー「はっ!? 忘れないと!!」
リズ「すぅ……すぅ……」
セラ「お嬢様、本当に実行されるおつもりですか?」
イリヤ「当たり前でしょう? このままなんてアインツベルンの名折れよ」
セラ「しかし、上手くいくとは思えません。実行されるにしても時間をかけたほうがよろしいかと」
イリヤ「なに? 私に意見するの?」
セラ「あ、い、いえ!! め、滅相もありません!! 全てはお嬢様のご意志のままに!!」
イリヤ「ありがとう、セラ」
セラ「お嬢様……」
イリヤ「バーサーカーも協力してくれる?」
バーサーカー「……」コクッ
イリヤ「ありがとう、大好きよ。バーサーカー」
バーサーカー「……」モジモジ
イリヤ「今日は休むわ。また明日ね」
セラ「畏まりました」
50人の女と浮気しまくった下半身もついでに暴走しそうなもんだがなんと大人しいことか。
セイバー「おはようございます」
士郎「おはよう、セイバー。すぐに朝食にしような」
セイバー「はい」
桜「……」ザンッ!!!
士郎「さ、桜?」
桜「なんですか?」
士郎「いや、包丁の扱い方がなんだか雑なような気がして。昔の桜みたいになってるから」
桜「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事をしてて。えへへ」
士郎「それならいいんだけど」
セイバー「サクラの様子がおかしいですね。昨晩、何かあったのですか?」
ライダー「多くの書物を手に取ってきた私ですが、所詮は俄仕込み。魔物のように膨れ上がった積年の慕情を一枚の便箋にまとめることなどできはしなかったのです」
セイバー「はぁ……。よくわかりませんが、精進あるのみです。ライダー」
ライダー「申し訳ありません……サクラ……」
凛(このラブレター、どうやって渡せばいいのかしら? 考えてなかった……。人前で渡せるわけがない……!)
士郎「それじゃ、行ってきます」
セイバー「お気をつけて」
ライダー「あの、サクラ……」
桜「……もういいから、ライダー。私が悪いだけなの。気にしないで」
ライダー「……」
士郎「おーい、遠坂。まだか?」
凛「ちょっと待ちなさいよ」
凛(朝は桜と一緒だし、渡せないわね)
セイバー「そういえば今朝はタイガの姿がありませんでしたね」
士郎「ああ、さっき電話で確認したら体調を崩したらしい。学校も休むって言ってた」
セイバー「あの万年健康体であるタイガがですか? 心配ですね」
士郎「放課後、藤ねえの様子を見てくるから。ただの風邪だと思うし」
セイバー「報告を待っています」
桜「いきましょう、せーんぱいっ」
桜「それじゃ、先輩。私はここで」
士郎「わかった」
凛「しっかりね」
桜「はいっ!」
士郎「桜って本当にしっかりしてきたな」
凛「後輩も沢山できたから、いつまでも末っ子気取りではいられないんじゃない?」
士郎「そういうもんか」
凛「……あ、あの、士郎?」
士郎「どうした?」
凛「えっと……あのね……」
慎二「衛宮じゃないか。朝から優等生の遠坂と一緒とは見せ付けてくれるなぁ」
士郎「慎二。朝からそういう言い方はやめてくれ。俺はいいけど、遠坂が気分を悪くするだろ」
凛「……」
慎二「な、なんだよ? 睨んだだけで僕を威圧できるとでも思ってるのか? はっ!! これだから勘違いの傲慢女は!!」
凛「……」
凛(バカの所為で折角のチャンスが……)
凛(くっ……!!)
楓「なんか機嫌わるくないか、遠坂のやつ」
由紀香「うん」
鐘「悩みを我々に相談してくるとは思えないし、我々で解決できるような悩みでもないだろう」
楓「案外、ラブレターを渡せなかったとかそういう乙女チックでセンチメンタルなことで悩んでたりするんじゃない?」
由紀香「えぇー!?」
鐘「ないとは言えないが可能性は低いだろう」
由紀香「わ、私もそう思うなぁ」
楓「ああいうタイプほどくだらねー悩みで悶々としてるもんですぜ、ゆきっち」
由紀香「別にラブレターを渡せないって悩みだとしても下らなくはないよぉ」
鐘「蒔の字の邪推こそが最も下らないと思うが」
凛(なんか噂されてるわね……。自分で気づいてないだけで、態度に出ちゃってるのかしら……。このままじゃ渡せない……)
由紀香「そんなことできるの?」
楓「余裕っしょ」
鐘「経験のないことを余裕と言える自信はどこから生まれるのか知りたいところだ」
凛(ラブレターの話……? 嘘……。ううん。私のことじゃないはずよ。この手紙は一度も懐から出してないし)
由紀香「マキちゃんはすごいなぁ。私だったら直接渡すなんて絶対にできないよ」
鐘「そもそも直接渡すだけの度胸があるのなら、自分の口で告白するだろう」
楓「わかってないなぁ、鐘はぁ。口では上手く言えないことも手紙だと書けちゃうこともあるだろ」
鐘「ほう。それは一理あるな」
由紀香「うん。普段いえないことを手紙に書いて渡すよね」
鐘「だが、直接に渡すのには抵抗がある者のほうが多いはずだ」
由紀香「私だったらこっそり机の中に入れたり、靴箱にいれたりしちゃうかも」
楓「流石、ゆきっち!! 押えるところ押えてる!!」
凛「……」
凛(なるほどね。私もよくそういう手紙が入ってることあったし……)
凛「そうよね。靴箱に入れちゃえば――」
イリヤ「ねー、シロウの靴箱見つかったぁ?」
バーサーカー「……」フルフル
リズ「ゴメン、イリヤ。でも、すぐに見つける」
セラ「どうして私がこのようなことを……」
イリヤ「ちゃんと調べておくべきだったわね」
凛「な、なにしてるのよ!?」
イリヤ「あら、御機嫌よう、リン」
凛「こんなところにバーサーカーを連れてきて何をするつもりよ!?」
イリヤ「シロウの靴を探しているだけよ。戦うつもりなんてないわ。勿論、貴女がその気なら別だけど」
凛「私もそんなつもりはないけど、誰かに見られたらどうするのよ。カレンだって流石に黙ってないわよ」
イリヤ「私たちから意識を逸らせるぐらいわけないわ。こうしていたって誰も私たちを視認できない。リンやサクラには効かないけどね」
バーサーカー「……」クンクン
リズ「シロウの匂い……近づいてきた……」クンクン
イリヤ「こんなの魔術の内にも入らないわ」
凛「ちっ……」
イリヤ「それで? リンはどうしてここに来たの?」
凛「た、たまたま通りかかっただけよ。イリヤこそ、なにしてるわけ?」
イリヤ「これ」
凛「それは……」
イリヤ「ラブレターよ」
凛「書いたの?」
イリヤ「ええ。リンに教わった通り、私の気持ちを歌にしたわ」
凛「そんなたった1日で作れるわけ……」
イリヤ「それができちゃうの。だって、私はシロウのこと大好きだもーん」
バーサーカー「……」クンクン
バーサーカー「■■■■■■――!!!!」
リズ「イリヤ、バーサーカーが見つけたみたい」
バーサーカー「……」コクッ
イリヤ「ふふっ。さて、いれちゃおっと」
リズ「任務完了。ハイタッチ、ハイタッチ」
バーサーカー「■■■■■■――!!!!!」
セラ「用事が済んだのなら帰りましょう、お嬢様」
イリヤ「そうね」
凛「早く帰りなさいよね」
イリヤ「……リン?」
凛「まだ何かあるの?」
イリヤ「貴女の内ポケットにある便箋はなに?」
凛「なっ!?」
イリヤ「ふふふ。ラブレターには和歌を書く。そんな風習、日本にはないそうね」
凛「なんだ、やっぱり気づいてたの。なら、そこに置いた手紙の内容も歌なんかじゃないわけね。そうよね、イリヤに和歌を作れるわけが――」
イリヤ「何を言っているの。私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。受けた挑戦に背を向けることはしないわ」
イリヤ「貴女がどうして嘘をついたのかなんて、少し考えれば分かることよ」
凛「え……」
イリヤ「私のシロウへの素直な気持ちをそのまま書いたラブレターじゃ、敵わないと思ったのね」
凛「……え?」
イリヤ「そうよね。本物のラブレター、いわば真・ラブレターを目の前で書かれちゃったら、トオサカも焦燥感に駆られても無理はない」
イリヤ「だから、リンは私を言葉巧みに誘導して、自分の領地へ引きずり込んだんでしょ? 自身のテリトリーで戦うのは魔術師の基本にして最も有効な戦術だもの」
凛「いや、ただの時間稼ぎ……」
イリヤ「見縊らないで。私はどんな場所でも、どんなに不利な条件でもあろうとも正面から戦う。そして勝つわ」
リズ「イリヤ、かっこいい」
バーサーカー「……」パチパチパチ
セラ「はぁ……」
イリヤ「どれだけ歌に自信があるのか知らないけど、私のほうがずっと、ずーっと!! 素敵な歌なんだからぁ!!」
凛「……」
凛(なんだ。そういうことだったの。これは好機ね。あの朴念仁に歌で告白したって、気づいてもらえるわけがないのに。イリヤは甘いんだから)
凛「アインツベルンの陣営は勝手に盛り上がってるけど、私は別にラブレターとかで勝負をするつもりなんてないから」
イリヤ「そうなの? だったらその懐にあるのはなに? 貴女もシロウの靴箱に入れにきたんじゃないの?」
凛「冗談。私がそんなことするわけないでしょう。たまたま通りかかっただけっていったはずよ。ちなみに私が持っている便箋は何も関係がないから」
凛(よかった。焦って書いたけど、この分だと進展するはずもないわね。この手紙は捨てないと)
イリヤ「なーんだ。じゃあ、私の一人勝ちになっちゃうんだ」
リズ「イリヤ、シロウと結婚?」
セラ「はぁ!? ありえません!!」
イリヤ「シロウと結婚したら、もうお兄ちゃんって呼んだらだめかなぁ?」
セラ「お嬢様!!」
イリヤ「バーサーカー、帰るわよ」
バーサーカー「……」コクッ
凛「安易にここへは来ないようにね」
イリヤ「――またね、リン」
凛(……イリヤ、微かに笑ってたわね。そんなに自信があるのかしら? まぁ、シロウに伝わるわけもないけど)
士郎「早いとこ藤ねえのお見舞いに行かないと」
一成「衛宮、ここにいたのか。すまないが頼まれてほしいことが……。いや、失敬。急いでいるようだな」
士郎「悪い、一成。明日に回せるならそうして欲しい。今日中ってことなら時間を作るけど」
一成「衛宮の貴重な時間を奪ってまで頼むこともない瑣事だ。気にしないでくれ」
士郎「一成も知ってるだろうけど、今日藤ねえが休んでただろ?」
一成「そうだな。容体が分かれば教えてくれ」
士郎「分かってる。それじゃ」
一成「うむ」
士郎「……ん? なんだこれ?」
一成「どうした?」
士郎「なんか、靴箱に封筒が入ってた」
一成「愛らしい封筒……。どう見ても艶書だな。差出人の名前は?」
士郎「いや、書いてない。というか誰かの悪戯だろ」
一成「衛宮に想いを寄せる婦女子がいてもなんら不思議ではないだろう。セイバーさんのような人ならいいのだが」
一成「衛宮に対して幼稚な悪戯を企てる者などいないだろうに」
士郎「心当たりがあるだけに不安だ」
一成「遠坂か?」
士郎「えーと……」
あらざらむ この世の外の 思ひ出に
今ひとたびの 逢ふこともがな
一成「なんと書いてあった?」
士郎「和歌だ。有名なやつ」
一成「和泉式部の歌か」
士郎「この歌の意味って確か……」
一成「私の命は長くない。だから、あの世へ行ったあとの思い出に、せめてもう一度、あなたに会いたい。そういう意味だ。艶書というよりは辞世の句に近いな」
士郎「……」
一成「衛宮の周りに余命幾許もない人でもいるのか? そのような重い病を抱えた生徒の話は聞いたことがないが……。まさか、藤村先生か……!」
士郎「……!!」ダダッ
セイバー「……む」
セイバー「おもいだす、はじめてであった……」カキカキ
士郎「――セイバー!!」
セイバー「おぉ!? シ、シロウ!! 随分と早かったですね。タイガのお見舞いに行かれたのでは?」
士郎「昨日、どうしてイリヤに電話したんだ!?」
セイバー「はい?」
士郎「教えてくれ!!」
セイバー「何かあったのですか?」
士郎「分からない。でも、多分イリヤは俺に何かを伝えようとして……これを……」
セイバー「この便箋は……? この歌……」
士郎「この字はどうみてもイリヤだ。セイバー、イリヤと何を話したんだ?」
セイバー「恋文に和歌を書くのは違うということを教えました。ですが、これがイリヤスフィールのものだとしたら、間違いであることに気づいていながら何故和歌を……」
士郎「……今日は帰りが遅くなるってみんなに伝えておいてくれ」
セイバー「シロウ……。分かりました。イリヤスフィールのことをお願いします」
イリヤ「ちゃんとシロウに伝わったかしら?」
リズ「完全にパクリだけど、よかった?」
イリヤ「いいじゃない。私の心情にぴったりな歌だったし、それに古い歌だからきっとバレないわ」
リズ「イリヤ、ちゃんと自分で作ったのあるのに」
イリヤ「だって、あんな不出来な歌だとシロウに失礼だし、リンにだって負けちゃうって思ったから」
セラ「ですから、もう少し時間をかけたほうがいいと……」
イリヤ「だって!! だって!! リンが今日か明日にでもシロウにラブレター出しそうだったんだもん!!! トウサカにアインツベルンが負けるわけにはいかないのっ!!!」
セラ「そうは言ってもですね。盗作ではあの愚昧の頂点にいるような男でも、流石に……」
イリヤ「だいじょーぶ!! バレてないっ!!」
バーサーカー「……」トントン
リズ「え? あ……。イリヤ、大変」
イリヤ「どうしたの?」
リズ「ラブレターに名前、書いた? バーサーカーが気にしてる」
イリヤ「……」
凛「ただいまぁ」
セイバー「お帰りなさい」
凛「あれ、士郎はまだ?」
セイバー「シロウは……その……」
凛「そっか。藤村先生のお見舞いに行ってるのね。それなら今日は私が夕食の下拵えでもしちゃおうかしら。必然的に中華になっちゃうけど」
セイバー「……リン。シロウはタイガの見舞いには行っていません」
凛「なんでよ?」
セイバー「イリヤスフィールから手紙を貰ったからでしょう」
凛「イ、イリヤ?」
セイバー「今頃はアインツベルンの城に――」
凛「う、うそでしょ?」
セイバー「何故、私がそのような嘘をつかなければならないのですか?」
凛「なっ……」
凛(そんな……!! あの士郎に歌のラブレターが通じたの……!?)
イリヤ「……」
リズ「イリヤ、元気出して。きっとシロウなら気づいてくれる」
イリヤ「はぁ……ただの悪戯だって思われてるわ……」
リズ「そんなことない」
イリヤ「もういい。ねるから」
リズ「イリヤ……」
『■■■■■■――!!!!!!』ドスドスドス
イリヤ「バーサーカー!!! 静かにして!! あと廊下は走っちゃダメ!!!」
『■■■■■■――!!!!!!』
イリヤ「なにを騒いでるのよぉ。私はそれどころじゃないのに」
セラ「お嬢様!!」
イリヤ「次はセラぁ?」
セラ「お気づきになりませんでしたか? 衛宮士郎が城の前に来ているのですが……」
イリヤ「え!? シロウがきてるの!? 全然気づかなかった!!」
士郎「お邪魔しまーす」
イリヤ「シロー!!!」
士郎「イリヤ!!」
イリヤ「わーいっ」テテテッ
士郎「……」
イリヤ「どうしたの? 来るなら来るっていってくれないと困るわ。こっちだっておもてなしの準備にはそれなりの時間が必要なんだから」
士郎「これ、イリヤが書いたんだろ?」
イリヤ「あ、うん。そっかぁ、気づいてくれたんだ! うれしい!!」
士郎「どうして、この歌を?」
イリヤ「だって、私の心情をそのまま詠んでるもの」
士郎「イリヤ……」ギュッ
イリヤ「ちょ、ちょっと、シロウ……あの……そんな急に……」
士郎「俺はずっとイリヤの傍にいる。最後までイリヤの傍に……。いつでも会えるところにいるから。こんな悲しいこと、言わないでくれ」
イリヤ「シロウ……どうしたの……?」
イリヤ「そんなことないよ。大好きなシロウに会える場所だもん」
士郎「そっか……」
イリヤ「もしかして、この歌の所為でシロウに心配かけちゃった?」
士郎「心配というか……イリヤが急に消えるかもって考えた……」
イリヤ「ごめんね、シロウ。私、困らせるつもりで書いたんじゃないから」
士郎「分かってるけど、イリヤからこの歌を詠まされたら……流石に……」
イリヤ「ごめんね」
士郎「……絶対に寂しい思いなんてさせない。イリヤは俺が守る」
イリヤ「ホント?」
士郎「ああ」
イリヤ「それなら結こ――」
士郎「え?」
イリヤ「……やっぱりいい。こうしてシロウが抱きしめてくれるだけで幸せっ」ギュゥゥ
士郎「これぐらいならいくらでもやるよ」
士郎「あ、悪い!!」
イリヤ「邪魔しないで!」
セラ「そうはいきません。全く、汚らわしい」
イリヤ「セラ! 食事の準備をしてちょうだい!!」
セラ「……畏まりました」
イリヤ「気を悪くしないでね」
士郎「いいよ。セラはイリヤのこと心配してるだけなのは知ってるから」
イリヤ「私、着替えてくる! おめかししなくちゃ!! シロウはここで待ってて!」
士郎「分かった」
イリヤ「わーいっ。シロウとディナー!」
リズ「イリヤ」
イリヤ「なぁに? 今、忙しいからまたあとで」
リズ「結婚は?」
イリヤ「私と結婚してもシロウだけが取り残されるでしょ。それに私はシロウに優しく抱きしめてもらえるだけで生きていて良かったって思えるの。だから、結婚はしなくてもいいかな」
士郎「いただきます」
イリヤ「ねえねえ、今日は泊まっていく?」
士郎「そうだなぁ。いいか?」
イリヤ「もっちろん」
セラ「部屋を用意しておきます」
イリヤ「必要ないわ。シロウは私と一緒に寝るでしょ?」
セラ「な……!?」
士郎「イリヤ、それはまずいだろ」
イリヤ「なんで?」
士郎「なんでって……その……色々……」
イリヤ「うふふ、シロウならいいよ?」
士郎「なにがだ!?」
セラ「おおお、お嬢様!!!」
リズ「イリヤも大人の女だから、セラ、口出し、ダメ」
桜「姉さん、下拵えしてくれてありがとう」
凛「まぁ、今日は士郎がいないから」
桜「そうですね」
ライダー「リン、それは禁句です」
凛「事実なんだから仕方ないでしょう」
桜「お野菜、切らなくちゃ」
セイバー「サクラ……?」
桜「ふんっ」ザンッ!!!!
セイバー「……!?」ビクッ
桜「私もラブレター渡そう……。先輩への愛を綴ったノートも15冊まで増えちゃったし……そろそろ……」
ライダー「いつのまに5冊も増えたのですか……!?」
凛「……」
凛(まさかイリヤに先を越されるなんて思わなかったわ)
凛(なりふり構ってはいられないわね)
イリヤ「シロウ、こっちこっち」
士郎「本当にいいのか?」
イリヤ「うんっ」
士郎「それじゃ、お言葉に甘えて」
イリヤ「ふふっ。やったぁ」スリスリ
士郎「……」
イリヤ「あ、もしかして薬品臭い?」
士郎「全然。イリヤの匂いは落ち着くぐらいだ」
イリヤ「お世辞でも嬉しいっ」
士郎「本心だ」
イリヤ「ねえ、シロウ?」
士郎「ん?」
イリヤ「リンからラブレターもらったことある?」
士郎「い、いきなりだな。遠坂がそんなのくれるわけないだろ」
というか泣く
士郎「ないって。桜はともかくセイバーが書くとも思えないけど」
イリヤ「じゃあ、私のラブレターが初めて?」
士郎「あれラブレターだったのか?」
イリヤ「えー!? 気づいてなかったの!?」
士郎「わ、悪い。ああ、確かにあれは恋の歌だもんな」
イリヤ「そうそう。とにかくラブレターだから。でも、ちゃんとしたラブレターとはいえないかも……」
士郎「とりあえずちゃんとしたラブレターをくれたのはイリヤが初めてってことになるか」
イリヤ「やったー。私はシロウの初めての女ってことね」
士郎「誤解されるような言い方はやめてくれ」
イリヤ「ふふん。リンも手を拱いているからこうなるのよ」
士郎「遠坂がどうかしたのか?」
イリヤ「まぁ、明日には分かるわ」
士郎「秘密ってことか?」
イリヤ「そのほうがシロウにとってもリンにとってもいいはずよ」
イリヤ「私が初めて?」
士郎「藤ねえが先」
こう答えてイリヤがどう思うのか考えてみなさい
ズゥゥゥン!!
セイバー「敵襲!?」
ライダー「この肌が焼けるような威圧感は……」
バーサーカー「……」
セイバー「バーサーカー……!!」
ライダー「手ごわい相手が来ましたね」
イリヤ「おはよー、セイバー。ライダー」
セイバー「イリヤスフィール。何事ですか」
イリヤ「今日も学校があるっていうからシロウを送ってあげたの。本当なら朝食も私のところで食べて欲しかったんだけど」
ライダー「シロウはどこにいるのです」
イリヤ「バーサーカー。シロウを降ろして」
バーサーカー「……」ポイッ
士郎「ぐぁ!?」
セイバー「シロウ!!! 我がマスターを投げ捨てるとは!! おのれ!!!」
セイバー「シロウ、怪我のほうは?」
士郎「大丈夫。イリヤに治してもらったから」
桜「イリヤさんのところで一泊されたんですね、先輩」
士郎「ああ、成り行きで」
イリヤ「うふふ。シロウと一緒に寝ちゃったっ」
桜「……」ゴォォ
ライダー「サクラ!! 気を確かに!!」
凛「どーせ、添い寝してもらったとかその程度でしょ?」
イリヤ「バカにしないで。私だって男と一夜を過ごす意味ぐらい分かってるわ」
桜「……」ゴォォォォ
ライダー「それ以上の発言は私が許しません!!!」
士郎「遠坂の言うとおり、添い寝しただけだろ、イリヤ」
イリヤ「もー。すぐに言ったら面白くないのにぃ」
凛「やっぱりね。そんなことだろうと思ってたけど」
桜「……はいっ」
ライダー「手伝います」
士郎「ありがとう」
イリヤ「ふふーん、リン。焦りが顔に出てるわよ」
凛「そんな安い挑発に乗るとでも思ってるの? これだから生粋のお姫様は」
イリヤ「あら、随分と悠長ね。シロウは私のラブレターを受け取って、すぐに駆けつけてくれた。これは揺ぎ無い事実」
凛「……」
イリヤ「これがどういうことか、分からないわけじゃないでしょう」
凛「わ、分からない、わね」
イリヤ「――シロウは私を選んだも同然ってことよ?」
凛「……っ」
イリヤ「さぁ、どうするの。本当に私の一人勝ちになっちゃうけど。私がシロウをもらっちゃってもいいの?」
凛「べ、別に、好きにしたらいいじゃない!!」
セイバー「その言い方だと、シロウはまだイリヤスフィールを選んではいないということですか?」
凛「あんた、シロウになんていったのよ!?」
イリヤ「リンには関係ないことでしょ」
凛「ぐぐ……」
セイバー「婚約を申し出たのですか?」
イリヤ「今はその気がなくても、時間さえあればシロウの体と心は私の物になるとだけ言っておきましょうか」
凛「魔術でも使う気?」
イリヤ「そんなもの使わなくても、ラブレターを送るだけでシロウは抱きしめてくれるけど?」
凛「……!」
セイバー「それはやはり和歌を用いたからですか!?」
イリヤ「そうかもね。ああ、だけど昨日は和歌よりも普通のラブレターがいいってシロウはいってたなぁ」
凛「……」ピクッ
セイバー「ほう」
イリヤ「あとね、ラブレターを目の前で読んでくれるような女の子が好きなんだって。私、今度はちゃんとラブレター書いて、シロウの前で読んじゃうんだから。ふふふ」
凛「……」
イリヤ「普段言えない事を手紙に書く。そこであえて書いた本人が言葉にする。その行動に胸を打たれるんだって」
セイバー「シロウはそういう行動を取る女性が好きだということですか」
イリヤ「真剣になってる姿がいいんじゃない?」
セイバー「なるほど。それはシロウらしいと言えますね」
イリヤ「でしょ? なんて書いちゃおうかなぁ。今度こそ、結婚してって書いて、言っちゃおうかなぁ」
セイバー「む……」
凛「――士郎」
士郎「どうした?」
凛「今日は先に行くわ」
士郎「なんでさ?」
凛「自宅に忘れ物があるの。朝食は適当にアーチャーにでも用意させるから」
士郎「そうか。なら、また学校で」
凛「ええ」
イリヤ「ふっ……」
凛「時間はないわね……。急がないと……」
凛「とにかく誰にも見られない場所に士郎を誘導させる必要が……」
アーチャー「帰ってくるなり机に向かって勤勉だな」
凛「でも、学園の敷地内で人目につかないところとなると、体育館裏とか放課後の教室よね」
凛「こうなったらいつかのときみたいに魔術で――」
アーチャー「手助けできることはあるかな?」
凛「ないわよ」
アーチャー「何をいきり立っている? 常に優雅たれ、ではなかったのか」
凛「……」
アーチャー「君が焦心していては、私も気が気じゃないのでね。独断で差し出す手も用意させてもらう」
凛「アーチャー……」
アーチャー「従者に遠慮など凛らしくあるまい」
凛「……士郎を誰も人目のつかないところに呼び出したいの」
アーチャー「なるほど。どうやら私にとっても有益なことのようだな」
セイバー「異常なし。朝の見回りはこれぐらいにしましょう」
イリヤ「セイバー、少しいいかしら?」
セイバー「はい。なんでしょうか」
イリヤ「シロウへのラブレターは書けたの?」
セイバー「……は?」
イリヤ「しらばっくれないで。私が書いてたラブレターを興味深そうに見ていたし、さっきも私の話に食いついていたでしょ」
セイバー「いえ……それは……そういうことでは……」
イリヤ「急がないと、私は勿論、あのリンにだって引き離されるばかりよ。それでもいいの?」
セイバー「しかし……私にはそういうのは似合わないので……」
イリヤ「似合う似合わないは関係ないわ。セイバーがどうしたいか、でしょ」
セイバー「……」
イリヤ「今更、セイバーが少しおかしな行動をとったからってシロウが愛想を尽かすと思うの? そう思っちゃうなら、仕方ないけど」
セイバー「シロウはそのような人間ではありません。それは私が一番よく知っている」
イリヤ「だったら、やるべきことをやってから後悔でもなんでもしたらいいじゃない。時間はあるんだから、何度でもやり直せるんだし」
桜「よいしょ」
ライダー「サクラ、何をしているのですか? そろそろ登校の時間です。シロウも待っていますよ」
桜「あ、ライダー。今から、先輩にこの666枚のラブレターと44冊のラブノートを渡そうと思って」
ライダー「サクラ!! それはいけない!!」
桜「……どうして? ライダー、私の邪魔をするの?」
ライダー「ち、違います!! それを渡してしまうとサクラとシロウの間に大きな溝ができてしまうのではないかと……!!」
桜「どうして、溝ができるの? 私の愛がこんなにも詰まってるのに。先輩、言ってたでしょ? 『俺に対しての好意が綴られてるんだから、嫌な気分になるわけがない』って」
ライダー「サクラの愛情は基準値を大幅に超越してしまっています!! 一度に渡してしまうとシロウが圧迫され潰れてしまう!!」
桜「確かにこんな量を渡されても読むのは大変だと思う。だから私は今まで渡せなかった。でも、もうここで尻込みしてたら先輩は遠くにいっちゃいそうで……」
ライダー「イリヤスフィールのことですか。気にしないほうが……」
桜「それに私は先輩のこと信じてるから。私の愛もきっと受け入れてくれるって」
ライダー「いや……それは……」
桜「ライダー……邪魔をするなら、いくらライダーでも……」ゴォォォ
ライダー「……!!」ビクッ
桜「きゃっ!? イリヤさん!?」
ライダー「いつの間に……」
イリヤ「うわぁ……。サクラ、こんなのをシロウに渡すつもりなの?」
桜「はい。ダメですか?」
イリヤ「貴女がどれほどシロウのことを思っているのかは嫌というほど伝わるけど、好きとか愛してるとか同じ言葉を並べても意味がないわ」
桜「だって、私にはそうすることでしか……」
イリヤ「好きとかは1回言えば十分よ。それよりもどうして好きなのかを書くべきじゃない」
桜「どうして……」
イリヤ「ただ漠然と好きって言ってもシロウ相手には伝わらないと思うけど」
桜「私、そういうことを書いたことがありませんでした」
イリヤ「サクラ、しっかりね。リンやセイバーに負けないように」
桜「は、はい!! ラブレター、書き直して先輩に渡します!!」
イリヤ「そう。なら、この禍々しい瘴気に満ちた手紙とノートはバーサーカーに捨てさせるわ。バーサーカー!!! これ遠くまで捨ててきてー!!! 普通の人間が触れると危ないから!!」
バーサーカー「■■■■■■■――!!!!!」
桜「はぁーい! 今、いきまーす!!」
ライダー「いってらっしゃい、サクラ」
桜「いってきます!」
イリヤ「全く。みーんな、手間がかかるんだから」
ライダー「……何故、あのような助言を?」
イリヤ「どうしてそんなこと聞くの?」
ライダー「貴女はシロウを独占したいと願っていたのではないのですか」
イリヤ「当然。シロウは私のモノよ。誰にも奪わせないわ」
ライダー「だったら……」
イリヤ「1人になると、シロウだって寂しくなるでしょ」
ライダー「……」
イリヤ「今から準備しておいて早いってことはないもの」
ライダー「貴女は……」
イリヤ「大好きなシロウにはずっと笑っていて欲しいなぁって思っただけ。何も企んでないわ。……リンに関しては別だけど」
士郎「おはよう、一成」
桜「おはようございます、柳洞先輩」
一成「おはよう。衛宮、藤村先生の容体はどうだった?」
士郎「あ! しまった! 色々あってすっかり忘れてた!」
桜「あぁ、そういえば……」
一成「何をしている。衛宮らしくもない」
士郎「今日も家には来てなかったし、休みか? 今日こそはお見舞いに行かないと」
桜「私も一緒にいきます」
士郎「悪いな、桜。お菓子でも持っていったほうがいいな」
桜「ですね」
士郎「ん?」
一成「どうした?」
士郎「また靴箱に手紙が入ってた。イリヤからじゃないよな」
桜「……誰からですか?」
士郎「とりあえず見てみるか……」ペラッ
桜「……」
衛宮士郎へ。
本日、17時30分、三階西側空き教室にて待つ。必ず1人で来ること。決着をつける。
遠坂凛より。
士郎「……」
桜「姉さん……」
一成「どうした? なんと書かれていた?」
士郎「いや。ただの悪戯みたいだ」
一成「そうなのか。衛宮に低俗なことをする輩といえば遠坂凛か間桐慎二か……」
士郎「(桜、どう思う?)」
桜「(……間違いなく、果し状ですよ、先輩。姉さんはかなり怒っているみたいですね。危険です)」
士郎「(そうなのか……。俺、何かしたかな……)」
凛「手紙は?」
アーチャー「しかと衛宮士郎の下駄箱に投函しておいた」
凛「ありがとう」
アーチャー「愚かな奴のことだ、ああ言えば必ず1人でやってくるだろう」
凛「……」
アーチャー「人払いの結界は既に施してあるのか」
凛「ええ。時間になれば発動させるわ」
アーチャー「それは重畳。それにしてもまさか凛が重い腰を上げるとは、何かあったのか」
凛「別に」
アーチャー「あとはマスターだけでも十分か」
凛「そうね。アーチャーに出来ることはもうないわね」
アーチャー「一応、待機しておいてもいいが」
凛「……私1人でやれるわ」
アーチャー(凛のことだ。轍を踏むことも考えられる。特等席で観覧するとしよう)
カレン「おや? この袋は……」
カレン「ランサー、ギルガメッシュ」
ランサー「なんだよ」
ギル「なんですか?」
カレン「この袋の中身を確認してもらえますか? 不法投棄の可能性もあるので」
ランサー「自分であけりゃあいじゃねえか」
カレン「早くしなさい、犬」
ランサー「なんで犬呼ばわりされて開けなきゃいけねえんだよ!!」
ギル「はい、お願いします」ドサッ
ランサー「ったく」ゴソゴソ
ギル「これは手紙とノートですね」
ランサー「なんでこんなもんが――」
ゴォォォォ!!!
ランサー「な!? この黒い影は――!?」
凛「そろそろね……」
凛「……」
凛(なんでこんなに緊張してるのよ!! あーもう!! 鳴り止め!! 私の心臓!!)
ガラッ
凛「……!?」
士郎「遠坂……」
凛「き、来たわね……」
士郎「……」
凛「……」
士郎「えっと……俺、遠坂になにかしたか……?」
凛「黙って」
士郎「なに?」
凛「喋るのは私の用件が済んでからにして」
士郎「用件ってなんだ?」
士郎「わ、わかった」
凛「ふぅー……」
士郎(できるか……。いや、遠坂が魔術を行使してから投影しても間に合わないかもしれない……。違う! 遠坂がそんなことをするわけが……)
凛(ラブレターを読むだけ……読むだけじゃない……。別に士郎の目を見る必要もないし……)ゴソゴソ
士郎(ポケットに手をつっこんだ……!? 宝石を出すつもりか……。遠坂を信じたいけど、万が一ってこともあるし……)
凛(わっ。士郎がすごく見てる……どうしよう……手が震えてきた……)
士郎(――投影、開始)
凛「……」
士郎「……」
凛(いくわよ、遠坂凛!! これぐらいのこと聖杯戦争に比べれば……!!)
士郎(何かがくる……!!)
凛「ふんっ!!」サッ
士郎「ロー・アイアス!!」
凛「……ん?」
凛「なにしてるの?」
士郎「……」
凛「……そういうこと。私の言葉は届かないぞってこと」
士郎「……遠坂?」
凛「そうなんだ。そっか……そうよね……シロウはもう……イリヤのこと……」
士郎「あれ……?」
凛「もういいわ。それじゃ」
士郎「待ってくれ、遠坂――」
バリィィィン!!!!
凛「え……!?」
士郎「ぐっ!!!」ギィィィン!!!!
凛「この宝具は……!!」
士郎「アーチャーのフルンディング……!!」
凛「アーチャー!!」
アーチャー「やれやれ……。おかしいと最初に気が付くべきだったか」
アーチャー「今更、あの凛が衛宮士郎を抹殺するなどありえない」
アーチャー「私の勘も鈍ってしまったようだな」
アーチャー「さて、尻拭いはここまでだ。凛、あとは好きにするがいい」
アーチャー「……屋敷の掃除をしなくてはな」
ランサー「――よう、弓兵。独り言が多いな」
アーチャー「どうした。重傷のようだが」
ランサー「これでもマシになったほうだ」
アーチャー「敵意は私に向いていないようだな。珍しい」
ランサー「とんでもねえ爆弾を置いていったやつを探してるところだ」
アーチャー「爆弾?」
ランサー「顔は割れてる。邪魔するなよ」
アーチャー「安心しろ。お前の前に立つ理由がない」
ランサー「相変わらずいけすかねえな」
士郎「はぁ……はぁ……。遠坂、怪我はないか?」
凛「う、うん。大丈夫。今のはこれを防ぐために展開したのね」
士郎「あのマンションから撃ってきたみたいだな」
凛「士郎のほうこそ怪我はない?」
士郎「今のはアーチャーの独断なのか?」
凛「あ、あたりまえでしょ!!」
士郎「そうだよな。悪い。果し状が届いたからてっきり……」
凛「果し状?」
士郎「これだ」ペラッ
凛「え!?」
凛(アーチャー……!! こんな書き方したら士郎が勘違いするに決まってるじゃない……!!)
士郎「ええと。遠坂も利用されたってことでいいのか?」
凛「え……あ、そ、そうね! そうそう!! 全く!! アーチャーめ!!」
士郎「よかった」
ってあんな紛らわしい書き方しなけりゃこんなことにもならんかったんだから自業自得なような気も
むむむ……
アーチャーは勘違いしてたからあの書き方だったわけで
勘違いさせたのは…
リカバリーとしては完璧に近い
ラッキースケベ発生させてたら完璧
士郎「気にしないでくれ。それより壊れたところ直さないとな」
凛「……あの。士郎に用があるのは本当なんだけど」
士郎「そうなのか?」
凛「うん……。こんなときに言うのもあれかなって思うんだけど、こういうときしかいう機会がなくて……」
士郎「なんでさ。遠坂とは週の半分以上は一緒に住んでるんだし、いつでも――」
凛「そうじゃないわよ。士郎の家にいたら、セイバーも桜もライダーも藤村先生もいるでしょ」
士郎「それはそうだけど」
凛「二人きりじゃないと、言えないこともあるじゃない」
士郎「と、遠坂、何を……」
凛「士郎……えっと……これ……」
士郎「手紙か?」
凛「慣れないことしちゃったから、変なところもあるかもしれないけど……き、きいて……くれる……?」
士郎「あ、ああ。勿論」
凛「そ、それじゃあ、読むわよ。一度しか言わないから、よく聞きなさいよ」
凛「あ、でも、そんなに真剣に聞く事も……」
士郎「そういうわけにはいかないだろ。遠坂は真剣じゃないか。なら、俺も真剣に聞く」
凛「ありがとう……」
士郎「読んでくれ」
凛「うん……。よ、読みます」ペラッ
士郎「……」
凛「シロウのことだーいすき! ……え?」
士郎「……」
凛「な……な……え……!?」プルプル
士郎「あー……えーと……」
凛「あ……あ……あれ……あ、ちがう、これ、わたしのラブレターじゃ……」
士郎「ラ、ラブレターか……ああ、そうか……そうだよな……」
凛「いや!! 違う!! 違うの!!! 私、もっとちゃんとしたこと書いてたの!! これ、違うの!!!」
士郎「違うのか!?」
士郎「遠坂、あの……」
イリヤ「――あーら、可愛いラブレターを書いたのね、リン」
凛「……!!」
イリヤ「ふふふ」
凛「イ、イリヤ……!? まさか……!! これ!!」
イリヤ「まぁ、このラブレターだって似たようなこと書いていたじゃない。私が直訳してあげただけよ」
凛「いつすり替えたのよ!!!」
イリヤ「だって、今朝見たときも昨日と同じ内ポケットにいれてるんだもーん」
凛「イリヤぁ!!!」
桜「――姉さんもそんなラブレター、書くんですね。イリヤさんには和歌を書くように嘘までついたのに」
凛「さく……!?」
セイバー「イリヤスフィールから面白いものが見れると聞いてやってきましたが、予想の斜め上を行きましたね」
凛「セイバー!? 違う!! これはイリヤが書いたもので!!!」
ライダー「イリヤスフィールから原文を拝見しましたが、あまり違いはないように思えます」
イリヤ「うふふふ。さーてと、お邪魔みたいだし、帰ろうかなぁ」
凛「待ちなさいよ!!!」
桜「姉さん……私もラブレター書いてみたんです……読んでもいいですよ……」ゴォォォ!!!
凛「やめて!! 黒いの出てるじゃない!! それ!!!」
ライダー「……何用ですか、ランサー?」
ランサー「やっと見つけたぜ、嬢ちゃん」
桜「ランサーさん。こんにちは」
ランサー「置き土産のほう、ありがとよ」
桜「え? な、なんのことですか?」
イリヤ「それ、私よ。サクラは関係ないわ」
ランサー「そうかい。この際、どっちでもいい。やられっぱないしは性に合わないってだけだからな」
イリヤ「いいわよ。やっちゃえ!!! バーサーカー!!!」
バーサーカー「■■■■■――!!!!!」
ランサー「なんでこいつまでいるんだよ!!!」
バーサーカー「■■■■■――!!!!!」ドォォォン!!!!
ランサー「あぶねえ!!!」
桜「きゃぁ!?」
凛「ちょっと!! やめなさい!! というか私のラブレター返しなさいよ!!」
ライダー「サクラ!! ここを離れます!!」グイッ
桜「あ、まって!!」
士郎「イリヤ!! やめてくれ!!」
イリヤ「バーサーカー!! そっちにネズミが逃げたわ!!」
バーサーカー「■■■■■――!!!!!」
士郎「イリヤ!!!」
凛「待てって言ってるでしょ!!!」ダダダッ
士郎「俺たちも追おう!」
セイバー「はい!!」
カレン「待ってください」
カレン「事情を聞きたいのですが」
セイバー「今はそれどころでは」
カレン「修復もしなければなりませんし……。隠匿も楽ではありませんので、それぐらいの協力はしてもらえるとありがたいのですが」
ギル「どうせ、直すのは僕ですよ」
カレン「英雄王は便利で助かります」
ギル「……」
士郎「事情といっても」
カレン「何故、ランサーを狙ったのですか? あんなビックリ箱を置かれるなんて、カレンちゃんビックリです」
セイバー「ビックリ箱? それは知りませんね」
士郎「さっきランサーが言ってたことか。俺たちは知らないんだ」
カレン「白々しい。この手紙が原因で大事な大事なサーヴァントが傷ついてしまったというのに……」
ギル「大笑いしてたじゃないですか、マスター」
カレン「そうでしたか?」
セイバー「その手紙とシロウにどのような関係が?」
士郎「瘴気……」ペラッ
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士郎「うわぁ!!!」
セイバー「シロウ!! 下がってください!!! この凶悪な魔力は人間には毒です!!! 私が斬ります!!!」ザンッ!!!
ギル「大丈夫だっていったのに。あと書いたのはサクラさんですよ」
カレン「そう。乙女のラブレターなのに斬り捨てるなんて酷いことを」
士郎「そんなわけあるか!!! 桜がこんなおかしなものを書くわけないだろ!!!」
カレン「それは教会の前に捨てられていた一部なのですが。信じないというなら構わないですが」
士郎「悪趣味だな、カレン」
カレン「では、改めまして、アーチャーによる襲撃やバーサーカーの暴走等について説明していただけますか」
士郎「……仕方ないか」
士郎「多分、そうなる。俺も全部を知っているわけじゃないけど」
カレン「イリヤスフィールから波及した一連の出来事……。セイバーも少なからず関わっているのでは?」
セイバー「私は何も知りません」
カレン「いえ、そうではなくて。例えば、イリヤスフィールに何かアドバイスを受けたとか」
セイバー「……」
カレン「話したくないと。それもまた一つの答えですね。分かりました」
士郎「セイバー?」
カレン「エミヤシロウ」
士郎「な、なんだ?」
カレン「大変ですね。色々と」
士郎「いや、そんなことは」
カレン「きっと貴方は気づいてはいないのでしょう。貴方のことを誰が最も好いているのか、なんて」
士郎「何がいいたい?」
カレン「本当の献身とは目には見えないものなのだということです」
ギル「マスター、終わりました」
カレン「ご苦労様。では、帰りましょう」
士郎「カレン……」
カレン「それでいいと思います。彼女もそれを望んでいる。むしろ気づかれては意味がないはず」
セイバー「……」
カレン「尊き命に幸多からんことを……」
ギル「さようなら、お兄さん、セイバーさん」
セイバー「はい」
カレン「失礼いたします」
士郎「カレンは何が言いたかったんだ?」
セイバー「……私には理解できません」
士郎「セイバーでもか」
セイバー「ええ。彼女の想いには敵わないかもしれませんね」
士郎「よくわからないけど……」
士郎「なんだ?」
セイバー「……敵わないかもしれませんが、私はそれでも正面から戦おうと思います」
士郎「え、ああ、うん」
セイバー「それでは、聞いてください」
士郎「え?」
セイバー「……」サッ
士郎「その便箋は……?」
セイバー「し、シロウへ。あなたの剣となり、わたしはとても幸せです」
士郎「……」
セイバー「いつもおいしいごはんを――」
士郎「もういい。セイバー」
セイバー「でも……」
士郎「顔真っ赤じゃないか。無理しなくてもいい。別に俺は感謝の手紙の内容を音読してほしいなんて思ってないからさ。渡してくれるだけでいいよ」
セイバー「そ、そうなのですか? ……まさか、また私は謀られた!? おのれ、メイガス……!!!」
大河「なによぉ!! 遠坂さんだってこんなラブレター書くんじゃなーい!! わらっちゃえー」
凛「やめてください!!! 返してください!!!」
セイバー「タイガ!! リン!! 騒々しいですよ!!」
士郎「藤ねえ、返してやってくれ」
大河「だったら私のラブレターもいい加減もやせー!!! いや、もやしてください!!!」
士郎「わ、わかったから!! だから遠坂にそれを返してやってくれ!!」
桜「はぁ……。結局、先輩に渡せなかったなぁ……」
ライダー「拝見してもいいですか?」
桜「うん」
ライダー「……」ペラッ
ライダー「きゃっ!?」ビクッ!!!
桜「どうどう? 今回はうまく書けたと思うの」
ライダー「サ、サクラ、推敲には時間をかけましょう。時間はあります。リンもセイバーも今回は失敗しているようですし」
桜「えー?」
イリヤ「ふんふふーん」
リズ「イリヤ」
イリヤ「んー? もう寝るから」
リズ「これ……イリヤの作った歌……」
イリヤ「捨てていいよ。そんな駄作なんてもう渡すことはないから。リンに知られたら恥ずかしいわ」
リズ「本当にいいの?」
イリヤ「いいの。……シロウは私に優しい。それだけで十分」
リズ「……わかった」
イリヤ「そーだ、明日はリズも一緒にシロウのところいく?」
リズ「いくっ!!」
イリヤ「うふふ。うん。それじゃ、明日ね。おやすみ」
――だいすきよ シロウのことが こころから わすれないでね わたしのきもち。
おしまい。
巧みじゃない分かわいくてキュンとくる歌だった
イリヤかわいい(確信)
本当に心から士郎のことを想ってることが伝わってくるわ…
というか瘴気を放つとか桜のラブレターヤベェ
やっぱりFateの女性陣はみんなかわいいな
桜さんの手紙は一種の呪いとかしてる。生霊でも憑いてそう
このSSもそれぞれ魅力が出ててすごく良かった
あぁ…イリヤかわいいよイリヤ
でも最後の、わすれないでね含めて切ないよイリヤ…
イリヤかわいい
全員揃ってる、この世界なら何ら問題ない筈?
金積んで人形師に頼んだりすれば良いだろうけど
乙
イリヤが健気すぎる
ついでに セイバー「シロウは結局誰を選ぶのですか?」士郎「勿論―――」の人かな?
だとしたら2作品とも大好きです、他にも発見できてないSSとかあったら読みたい
みんな可愛いけどイリヤ大勝利。あと初々しい凛とか最高だぜ。
アナザーな凛ちゃんならそれはもうラブレターのような甘い言葉は普通に言えるんでしょうねきっと。
士郎の未来を考えて他のヒロインにまで助言するとか、これがパーフェクトなイリヤか。
でもイリヤが先のこと見据えて行動しているのが切ないよね。
辞世の句に近いとも言える歌をわたしの心情とか言われればそりゃ士郎さんもマジになるさ。
身も心もお姉さんに成長したイリヤが士郎を独り占めとか見たい管理人です。
まあ生きて欲しいけど儚いからこその人気もあるし……
とりあえず誰か橙子さんの居場所知らない?