TVアニメ『Fate/Apocrypha』第18話感想 弱者たちによる邪悪な地獄、奈落の果ての悪徳の都、人も英霊も戸惑う世界機構の一端を目の当たりにしても迷わない聖女
親に捨てられるアタランテ。
彼女はそれを哀れ思ったアルテミスに拾われるという経緯。
これは小説ではアタランテがジャックに矢を撃つ前の回想モノローグで語られてました。
アニメでは今回の愛されなかった子供というテーマにうまく繋げてきましたね。
メディアリリィはセリフまであるファンサービスぶり。
当時とは違って情報があるからこそできるアニメならではの演出が面白い。
ちなみにアタランテは父と再開できます。父親が会いにやって来るのです。
冒険で得た武勇と名声と美貌が父親の耳に入ったのだ。彼女は喜びました。
父親も喜びました。美しく成長してるので婚姻の材料に使えるなと。
彼女は結局最後まで愛されない子供を体現する存在となってしまったのだ。
その彼女にジャック・ザ・リッパーとなった子供たちの絶望が襲う。
同じくジークくんにもとびっきりの悪夢が襲う。
それは当時の地獄だったロンドンの光景。ただそれだけ。
それだけが人間というものに幻想を抱いていた彼の心に刺さる。
弱者がどんどん淘汰されていく弱者しか居ない地獄。
アニメでも年端もいかない少女がひどいことになっていますけど
小説の地の文だとさらに救いようのない解説があります。
当時のロンドンで化粧が濃い少女が何をしてたのかと考えると答えは出るかもしれない。
人間の善性を信じてたジークくんの幻想が人間の悪性によって汚染されていく。
小説だとそのジークの幻想に致命傷を与えるのは最後までジャックちゃんの役目。
アニメでは玲霞さんの出番がありました。
単純に出番を増やす意図もあったんでしょうけどこれは良いアレンジだと思いました。
玲霞さんもまた弱者だった。実際、本当なら生贄にされてたはずの女性。
多くの弱者と違う点は彼女には救世主、すなわちジャックに命を救われた点。
その玲霞さんが世界のシステムのどうしようもなさを語るこの演出。
天草の人類救済というテーマの強調にも一役買っていますね。
まだ世界も人も知らなすぎるジーク君には重すぎる問題です。
同じく悪夢を魅せられているジャンヌさんは他の二人に比べて冷静すぎるのがよくわかる。
アタランテやジークを見てもわかるように何かしら感じるのが人情というもの。
そう、まったく同情も動揺もしてないのである。
むしろ厳かに滅ぼす宣言する聖女を見て逆に子供たちが動揺する。
自分たちに救いはないと言われたのだからそれも当然か。
ジャンヌは迷える子供たちなら救うことはできた。
でもジャック・ザ・リッパーだけは救うことができない。
ジャックとなった子供たちは一人一人は世界に認知すらされていないような存在。
集合体となって形成されたジャックはもう子供たちではないのだ。
それでもジャックたちを子供たちと認識する英霊がここに一人。
他の英霊ならここまでジャックの存在に心を乱されたりしないんでしょうが
アタランテだけは別。愛されなかった子供たちの存在は彼女には特に効くのだ。
そしてらしくもなく言葉を荒げるアタランテさんの演技は視聴者に効く。
生前の彼女の目の当たりにした地獄には前提として正義と悪があった。
暴君だったり魔獣だったり神々だったり、地獄にも原因があった。
このロンドンには何もない。ただのシステムが生み出した邪悪な地獄。
ジャンヌはそんな中でもやるべきことをやろうとジャックたちに向き合う。
ざっくり言えばジャックたちは悪霊だから救うという概念は通用しませんというのがジャンヌの言。
そして終わりを受け入れる子供たち。
ジャンヌはジャックたちを滅ぼすことに迷いなどない。
だからといって何も感じないなんてそんなわけはあるわけない。
食いしばる唇から流れる血が何よりの答えでしょうね。
それでも挫けないから彼女は人々に聖女と呼ばれる英霊なのであろう。
ジャックちゃんは最後に聖女を憐れむ言葉を残して消滅するのであった。
これでもうこのジャックちゃんが聖杯戦争に召喚されることは二度とない。
同じ条件を整えても聖杯さんが別の何かを「ジャック」という枠に用意するだけである。
聖女の手によって悪霊の集合体は昇華されたのだ。
そして生まれるジャンヌとアタランテの因縁。
小説だとこのシーンにジークくんは居ないんですがこれも面白いアレンジ。
人間に幻想を抱く彼にはジャンヌの行うことは直接目にする意義はあるでしょうね。
対してアタランテは人間の非道さが作る地獄や世界の醜さも知ってはいる。
それでも彼女は「無償で親に愛される子供」は幻想ではなく確かに存在することを知っている。
後はそれが全ての子供に起こればいいんだけど現実として難しいんですよね。
そしてある意味で信じてた聖女が子供を切り捨てたと解釈するアタランテ。
黒のアサシンは消滅しても残した爪痕はかなり深い。
無垢なジークくんもその影響がとても強い。
あれが人間なのか?と答えを出してしまいそうになるジーク。
それに待ったをかけるのがジャンヌという存在です。
ジャンヌはまさにその人間の理不尽な非道を見ただけでなくその身に体感した英霊。
そのほかならぬ彼女がそれでも人間を見限らないでくださいと言う。
そういうものだなどと諦めないでくださいと彼女はジークくんに願う。
人に冷めることは簡単で、人を憎むことはもっと簡単。
その簡単な道ではなく人を愛し続ける難しいほうを選んで欲しいと。
ジャンヌはこんなに清らかなのに何ニヤついてるんだピエールその他コノヤロウ。
ジャンヌが諦めていないというその事実。
それがジークの混乱や人間への嫌悪を押しとどめることになった。
自分のような未熟者風情が簡単に諦めるわけにはいかないと。
培養槽から歩き出したばかりのジークは見ることも学ぶべきことも多い。
今はまだ答えは出せないけど彼はそれでも前に進んでいくのだ。
そのジークという少年の役割はシェイクスピアも注目している。
なんだか次回予告みたいになってるし締め切り前の作家みたいで笑ってしまうが
彼だって大真面目にこの戦いに挑んでいるのだ。面白さ優先で。
物語もあらかた対立構造も出来上がり、ジャックちゃんも退場していよいよクライマックス。
最終決戦が始まれば終わりまでは目が離せませんので刮目せよ。
おやすみなさい、ジャック